浄厳院

応永11年（1404年）、隆尭によって金勝山（金勝寺）の峰に浄厳坊の名で創建された。隆尭は応永20年（1413年）に阿弥陀寺を創建した。
天正5年（1577年）、8世・応誉明感のとき、織田信長の命で安土城下の慈恩寺跡地に強制移転させられ、浄厳院となった。慈恩寺は佐々木六角氏の菩提寺で、織田信長により焼亡した寺院であった。応誉明感は阿弥陀寺の8世も兼ねており、浄厳坊移転の翌年に阿弥陀寺より宝物の一切を伴って移住した。
移転に際して堂宇は新たに整備されることとなった。信長によって蒲生郡多賀村（現・近江八幡市多賀町）にある天台宗の興隆寺にあった弥勒堂を移して本堂としたほか、丈六の本尊阿弥陀如来は愛知郡二階堂（現在地不明）にあったものを移した。楼門については解体修理の結果、移築されたものではなくもともとの慈恩寺の残存建築物であったとわかった。
天正7年（1579）5月27日、浄土宗と日蓮宗との論争である、いわゆる安土宗論（問答）が行われた。これは5月中旬に下野国浄運寺（現・群馬県桐生市）より安土に来て法話をしていた浄土宗の霊誉玉念に対し、法華宗（日蓮宗）の建部紹智と大脇伝助が議論をしかけてきたことを発端とし、霊誉玉念による法華宗僧侶を呼んでこいという返答に対して両名は法華宗側として妙覚寺の日諦・頂妙寺の日珖・久遠院の日雄ほか数名を呼ぶこととなり、対して浄土宗側は霊誉玉念ほか安土西光寺の聖誉貞安らが宗論を行ったというものである。織田信長の耳に入った時点で信長は双方に控えるよう通達したが、慢心した法華宗により開催されることとなり、信長は建仁寺長老・鉄叟景秀と因果居士を審判として派遣した。結果はある問いに法華宗側が返答できなかったことから浄土宗の勝ちとされた。浄厳院にはこのときに浄土宗側の聴衆が騒ぎ喜んだことに発する「かちどき念仏」が今に伝承されている。
江戸時代には近江における浄土宗の中心寺院となっており、元禄6年（1693年）には近江・伊賀両国に直末182箇寺をもち、又末寺を合わせると284箇寺を束ねていた。中でも、甲賀郡滝称名寺・栗太郡金勝阿弥陀寺・野洲郡永原常念寺・神崎郡下野弘誓寺はそれぞれ10箇寺以上の又末寺を抱える浄厳院の中心的な末寺であった。
元禄16年（1702年）に不動堂が、寛保2年（1742年）に鐘楼が建立された。